大手中国系VPNが業務停止 日本人利用者の今後は?

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2017年7月1日、中国人の間で評判の良かった、中国の事業者が提供する「GreenVPN」が中国政府の命令を受けて事業停止しました。

これについて、昨日Yahoo!ニュースでも報道されました。
中国、人気VPNサービスに停止命令か–SNSへのアクセスさらに困難に

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この報道により、中国にいる日本人たちの間で「いよいよ中国で完全にVPNが使えなくなる!?」と騒ぎになっています。仕事においても趣味においても、中国在住者にとってVPNは日常に欠かせないものですから、心配になるのも当然でしょう。

これからまだ使えるのか?使っても大丈夫なのか?私の個人的な分析による結論としては、中国人でなければこれからもVPNを利用できます。その根拠と今後の注意点を下記に述べます。

一、中国におけるVPNの動向と事実分析

ネガティブ動向:中国政府によるマスコミ、SNS、ネットの制限は今後更に厳しくなる

今年の1月22日、工信部は「インターネット接続サービス市場の浄化及び規範化に関する通知(关于清理规范互联网网络接入服务市场的通知)」を発表、データセンタ(IDC)、インターネットサービスプロバイダ(ISP)、コンテンツ配布ネットワーク(CDN)業務の無許可営業や範囲を超えた営業、又貸しを一掃し、中国国内のISP事業やVPNの管理強化も行うとしました。

2017年6月1日 「中国インターネット安全法中华人民共和国网络安全法)」がスタート。この内容については中国トレンドExpressの「中国「インターネット安全法」施行 外国企業は恣意的運用を懸念」に詳しく書かれていますので、ご参照ください。

続いてこの「中国インターネット安全法」の実施を受けた2017年6月8日、「毒舌电影」、「严肃八卦」、「南都娱乐周刊」など25の人気Wechat公式アカウント (微信公众号) が永久停止処分となりました。今まで中国の政治評論をするアカウントが停止されることはありましたが、映画評論や芸能界評論の公式アカウントが停止されたのは今回が初めてです。参考:“毒舌电影”等25个公众号被封,自媒体“地震”?

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そして2017年6月22日、中国政府機関(国家新聞出版広電総局)は中国版Twttierの「微博(weibo)」、中国政府とも関係の深い「鳳凰網」など大手サイトに動画番組の配信停止命令を出しました。理由は「動画番組提供の免許」を持っていなかったためです。参考:没有许可证 新浪微博、凤凰网等视频将被关闭 网民还能上传小视频吗?

エンターテイメントにまで手を出しはじめたのは、国内政治の世論統制が成功したことを意味しています。そこまで重要ではなかったエンターテイメント世論の管理をする余裕がでてきたということです。

こうした現状に、欧米に移民した中国人エリート層や政治評論家たちはYoutube、Twitterなどを用いて政治批判を行っています。そして中国政府にとってこれが一番都合の悪いことです。なんとか国内の国民たちに見せないようにしたい。そのために、海外のサイトの管理まではさすがにできないものの、せめて国内では「危険な」内容を見られないように、莫大な費用をかけ、最新技術を投入してネット検閲システム「グレートファイアウォール」を構築しているのです。

今秋、次の指導部を「選挙」で決める最も重要な政治大会「19大」が開催されるため、これからネット管理がさらに厳しくなるのは間違いありません。そして「グレートファイアウォール」を突破できるVPNの取締りやブロックもますます厳しくなるでしょう。

ポジティブ動向:中国は世界と縁を切れない。完全なる「ネット鎖国」は不可能

中国は「社会主義」と言ってはいるものの、それは政治だけで、経済は「中国式の資本主義」ですね。様々な社会問題を抱えているにもかかわらず国内が一応安定している最大の理由は、経済で成功したことです。その経済で成功した理由の一つはグローバル化です。グローバル化においてインターネットは最も重要な基盤であり、海外のネット通信を全て排除してしまったら中国の発展はありえません。そのために中国にとって排除したいはずのVPNは、中国にとって絶対に必要であるという矛盾が生まれます。そしてネット社会が発展していく現代において、中国もますます海外とのネットのつながりが必要になってきています。

世界と縁を切れないVPNユーザー達
VPNユーザー①:外資系企業
北京、上海など大都市に支社をかまえる大手外資企業は本社とVPNや専用回線で繋がっています。この通信を全てブロックすることはできませんし、外資企業側も本社と細かい連絡が取れないのでは仕事になりません。
VPNユーザー②:中国の研究者、IT開発者たち
中国人だって海外の最新技術を学ぶ必要があります。専門分野の研究者やIT開発者などにとってGoogle上にある情報は欠かせないものです。
 VPNユーザー③:中国にいる外国人
ビジネスや留学、旅行などで中国に滞在する外国人が、自国の家族や友人と連絡をとれないと困るので、VPNが必要になります。

Twitterの統計では、中国大陸に1000万のユーザーがいるとしています。もちろんVPNを経由しています。また、Globalwebindexの2014年の報告では、中国には9300万のVPNユーザーがいるとしています。正確な数字は判断できないでしょうが、中国にVPNユーザーが数千万単位でいるのは間違いないでしょう。

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二、実はVPNを一切禁止するという法令は出していない

そもそも中国政府はVPNを一切禁止するという法令はだしていません。法令で明確化されたのは「無許可のVPN」の禁止です。つまり中国の国際通信事業免許を持つ業者のサービスを購入すれば、合法的にVPNを使えるのです。しかし、この免許は基本的に中国の国営企業しかまず取ることはできず、資本金が1000万元(1億7000万円)以上という条件もあります。

また免許を取得した業者のVPNサービス料金は非常に高く、さらに複雑な代理業者のシステムが料金と手続きを不透明にさせています。料金の例としては、ある代理業者を通した価格は2Mの国際VPN回線で、初回設置料金が15000元(25万円)、毎月の利用料が8000元(13.4万円)です。大手企業には問題ない価格でしょうが(といっても2Mの回線一つだけでは全然足りないですから、大手だって厳しいでしょう)、中小企業にとっては大きな負担だと思います。

VPN事業を経営したい中国の会社は少なくないはずです。もちろん、「国際通信事業免許」を取れるなら取りたいでしょう。しかし残念ながら、これは国営でない一般企業ではほぼ不可能です。

これにより、今中国の巨大なVPN需要と、中小企業や一般人には手の届かない「合法」のVPNサービスの取得は大きな矛盾になっています。今まではこの矛盾の間で生まれた中国系のVPN業者が白タクのように闇の中を走っていましたが、これからは中国系のVPN業者は厳しく取り締まられます。

つまり合法のVPNサービスはほとんどの一般中国人・外国人にとっては手に届かないものであり、利用は考慮の余地がありません。

三、海外のVPN業者のサービスはどうなる?

中国以外の、特に先進国ではVPN事業は特に禁止されていません。日本の場合は、会社法人がきちんと「通信事業届け」を提出すれば、VPNサービス提供に法律的問題はありません。

中国政府は外国にいる経営者を直接管理することはできませんので、業務停止させることもできません。仕方がないので、中国の「グレートファイアウォール」を利用し、中国国内のネットから海外のVPNサーバーをブロックするというのが常套手段です。特に政治大会開催の前後は毎回一斉に海外のVPNサーバーをブロックします。もちろんその後、VPN業者はまた新しいVPNサーバーを調達してサービスを復旧します。

上記のことから中国はVPN通信を完全に切断することができませんので、しっかりとした技術力を持つ海外のVPN業者のサービスを購入すれば、これからも中国で利用可能です。ただ時期によって、接続しにくい時はあるでしょう。

四、中国でのVPN利用は危険になるか

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ただの一般市民で、趣味でVPNを利用しているだけでも、突然警察がやってきて捕えられてしまうのではと心配している人もいるようですが、中国政治の特徴、政府の目的から考えると、中国政府が最も重要視する点は政府批判の隠滅です。外国人が趣味やビジネスのために海外のネットを使うことは政府にとって重要なことではありません。あなたが中国人ならVPN利用は危険である可能性がありますが、中国政府が不愉快に思うことをしなければ、中国人でもVPNを利用するだけで捕まる可能性は低いです。そして外国人なら、まず心配はないでしょう。理由は、「VPNを利用した」というだけで外国人を逮捕すれば国際問題になりますし、中国政府が国際社会に笑われてしまうからです。

また、中国では今までVPN関連で逮捕者がでたニュースが何件かありましたが、逮捕者の共通点はVPN利用方法を広い範囲で他人に教えた、またはVPNサービスを提供していた人たちです。自分が利用したというだけで逮捕された例は中国人でも今まで一件もありません。

そうはいっても、中国政府が恐れる内容をVPNを使って掲示板などの大勢の人が見ている場で発言する等の行為はもちろん控えるべきです。

結論

1.中国にいる外国人にも中国人にもVPNは欠かせない
2.中国政府は全てのVPN通信を禁止するとは言っていない
3.法人なら免許取得したVPNサービスを購入可能だが、一般人には無縁
4.中国以外の海外VPNサービスは違法ではないが、それを中国で使うのはグレーゾーン
5.中国でのVPN利用はグレーゾーンだとしても、ほとんどの人はそうするしかない。そしてそれは莫大な人数になる。
6.外国人がビジネスや趣味でVPNを利用することで逮捕につながるとは考えられない

中国にいる場合、日本の常識は通用しません。一つの例として、中国の電動自転車を挙げてみたいと思います。中国の電動自転車の法的基準スピードは時速20km以下で、それ以上は電動バイクとして運転免許が必要です。しかし、中国にはこの基準を守る電動自転車はほぼありません。時速40kmで走っている無免許の電動自電車は普通です。中国にいる限り、どうしてもグレーゾーンを避けられない場合もあるということです。

今回の「大手中国系VPNが業務停止 日本人利用者の今後は?」に関連して、次回はどのようにVPNサービスを選択していったら良いかと、VPNの接続方式の違いやどの接続方式にするのが良いかといったことを紹介したいと思います。

追記:中国でのVPN選択ポイントと接続方式指南